世界の酒A~Z
2005年 09月 25日
場所はロンドン。とあるホテルのカクテル・バーである。
お客が入ってきて、アメリカ訛りの英語でドライ・マティーニを注文したとしよう。バーテンダーは、ジンをベースにヴェルモットをわずかに加えるあの作り方のカクテルだ、それもオン・ザ・ロックスでご所望だと見てとる。これがイギリス人なら、それも齢40を越える中年客には、ストレート・アップ、つまりオン・ザ・ロックスにしないで出すにちがいない。若いお客なら、あるいは場所がホテルのカクテル・バーではなく、町なかのパブでの注文だったら、ジンは使わず、マルティーニ・エ・ロッシ社のドライ・ヴェルモットをグラスにたっぷり注いで出すだろう。ヴェルベットのことをドライ・マティーニとも呼び、若者の間ではとても人気があるからだ。バーテンダーは勘よく判断するか、不調法のそしりを覚悟の上でたずねてみるしかないわけだ。
バーテンダーは楽な稼業ではない。しかし飲む方にも同じことが言える。洋酒の用語は今ひどく混乱しているのだ。名前は同じでも、国が変わるとまるで別な飲みものになる可能性すらある。地理的な判断が大切な場合もあれば、そんな心配など無用な酒もある。
ロンドン・ドライ・ジンはアメリカでも蒸留できるし、バーボンはカナダでも生産されている。しかしスコッチは、同じイギリスでもイングランドでは造れない。かりに各種ウイスキーの中でモルト・ウイスキーが高潔な産物だとしたら、普通のウイスキーといったいどう類別するのか、両者のどこがどうちがうのか?貯蔵年数、アルコール度、産地のちがいだけだろうか?ラベルにシャンパーニュと書いてあるシャンパンとブランディーがあれば、産地は同じと考えてよいものだろうか?
ユニヤックはフランスのシャラント県の産出に限るというが、それならアルマニャックは単なるブランディーか?チェリー・ブランディーが真のブランディーでないとしたら、キルシュはどうなるのか?息が詰まるほどきついのがウォッカなら、シナモン好きのイーゴリ公が愛飲していたのはなんなのか?シュナプスをたのんだだけなのに、ドイツのウエイターが当惑の表情を見せたのはなぜだろう?
これには言葉の問題がからむ。例えば、オートモビールといえば国産車、外車の別なく自動車で通るが、酒となるとそれぞれの国の土壌、産物、風土、伝統をになう産物であり、母国語そのままの名で呼ばれるのが普通だ。産出国ならではのユニークな存在だし、神秘的な産物でもある。アルプス山地の僧院ではるか昔から知られている酒も、NY目抜きのマディソン街製造の新しい酒についても、これはあてはまる。
表示は穏当で、嘘いつわりはないのだけれども、どうしてもスコットランドの霧中をゆく気がする。ラベルに情報がぎっしり書き込んであるように見えても、実はそうではないからだ。ラベルの言葉が何を意味するのか、この判断がむずかしい。年代の古さと出所の良さを表示してある場合でも、せいぜい壜の中の酒は何か、甘さと辛さやスタイルの類別に準じたものかどうかくらいを、はっきり書いた程度に過ぎない。メーカー自身の名称が表示されているのはもちろんだし、相応の規模の会社ならその酒の商標名まで書いてある。アルコールの探求に傾倒しようとする者にとって、これがまたややこしい。
メーカーにとっても、厄介なことがある。例えば、コアントロー。これはあるリキュール・メーカーの社名だけれども、すでに有名になっていた自社製品のトリプル・セックのキュラソーに特に社名を付した。ためにコアントローといって注文すると、このメーカーに追随した他社が数多くのトリプル・セックを製造販売しているにもかかわらず、コアントロー社のトリプル・セックしか来ないのである。つまりトリプル・セックは、特定タイプのキュラソーを意味する総称になってしまったわけだ。正しくはオレンジ・リキュールなのに、今までは誰もがキュラソーとかトリプル・セックといって注文している。
オレンジ・リキュールというのもあいまいな表現かもしれない。はっかの酒をバーでたのむとき、お客はたいていペパーミントとか、クレーム・ド・マントと言い、フレーゾマンFreezomintとか、ピプルマン・ゲPippermint Getなど、商標名を使う人は少ない。南ヨーロッパで何千と製造されている。その他の特色あるリキュールとなると、話は限りなく錯綜してくる。各メーカーともその酒の総称はなるたけ追い出して、自社の商標名を強調し、その作り方を守ってゆこうとしているからだ。
サンブーカはたくさんあるが、ガリアーノはひとつしかない。パスティスもいくつかあるが、ぺルノーはひとつ。ロック・アンド・ライは誰でも作れるが、フォービドゥン・フルーツは作れない。
お客が入ってきて、アメリカ訛りの英語でドライ・マティーニを注文したとしよう。バーテンダーは、ジンをベースにヴェルモットをわずかに加えるあの作り方のカクテルだ、それもオン・ザ・ロックスでご所望だと見てとる。これがイギリス人なら、それも齢40を越える中年客には、ストレート・アップ、つまりオン・ザ・ロックスにしないで出すにちがいない。若いお客なら、あるいは場所がホテルのカクテル・バーではなく、町なかのパブでの注文だったら、ジンは使わず、マルティーニ・エ・ロッシ社のドライ・ヴェルモットをグラスにたっぷり注いで出すだろう。ヴェルベットのことをドライ・マティーニとも呼び、若者の間ではとても人気があるからだ。バーテンダーは勘よく判断するか、不調法のそしりを覚悟の上でたずねてみるしかないわけだ。
バーテンダーは楽な稼業ではない。しかし飲む方にも同じことが言える。洋酒の用語は今ひどく混乱しているのだ。名前は同じでも、国が変わるとまるで別な飲みものになる可能性すらある。地理的な判断が大切な場合もあれば、そんな心配など無用な酒もある。
ロンドン・ドライ・ジンはアメリカでも蒸留できるし、バーボンはカナダでも生産されている。しかしスコッチは、同じイギリスでもイングランドでは造れない。かりに各種ウイスキーの中でモルト・ウイスキーが高潔な産物だとしたら、普通のウイスキーといったいどう類別するのか、両者のどこがどうちがうのか?貯蔵年数、アルコール度、産地のちがいだけだろうか?ラベルにシャンパーニュと書いてあるシャンパンとブランディーがあれば、産地は同じと考えてよいものだろうか?
ユニヤックはフランスのシャラント県の産出に限るというが、それならアルマニャックは単なるブランディーか?チェリー・ブランディーが真のブランディーでないとしたら、キルシュはどうなるのか?息が詰まるほどきついのがウォッカなら、シナモン好きのイーゴリ公が愛飲していたのはなんなのか?シュナプスをたのんだだけなのに、ドイツのウエイターが当惑の表情を見せたのはなぜだろう?
これには言葉の問題がからむ。例えば、オートモビールといえば国産車、外車の別なく自動車で通るが、酒となるとそれぞれの国の土壌、産物、風土、伝統をになう産物であり、母国語そのままの名で呼ばれるのが普通だ。産出国ならではのユニークな存在だし、神秘的な産物でもある。アルプス山地の僧院ではるか昔から知られている酒も、NY目抜きのマディソン街製造の新しい酒についても、これはあてはまる。
表示は穏当で、嘘いつわりはないのだけれども、どうしてもスコットランドの霧中をゆく気がする。ラベルに情報がぎっしり書き込んであるように見えても、実はそうではないからだ。ラベルの言葉が何を意味するのか、この判断がむずかしい。年代の古さと出所の良さを表示してある場合でも、せいぜい壜の中の酒は何か、甘さと辛さやスタイルの類別に準じたものかどうかくらいを、はっきり書いた程度に過ぎない。メーカー自身の名称が表示されているのはもちろんだし、相応の規模の会社ならその酒の商標名まで書いてある。アルコールの探求に傾倒しようとする者にとって、これがまたややこしい。
メーカーにとっても、厄介なことがある。例えば、コアントロー。これはあるリキュール・メーカーの社名だけれども、すでに有名になっていた自社製品のトリプル・セックのキュラソーに特に社名を付した。ためにコアントローといって注文すると、このメーカーに追随した他社が数多くのトリプル・セックを製造販売しているにもかかわらず、コアントロー社のトリプル・セックしか来ないのである。つまりトリプル・セックは、特定タイプのキュラソーを意味する総称になってしまったわけだ。正しくはオレンジ・リキュールなのに、今までは誰もがキュラソーとかトリプル・セックといって注文している。
オレンジ・リキュールというのもあいまいな表現かもしれない。はっかの酒をバーでたのむとき、お客はたいていペパーミントとか、クレーム・ド・マントと言い、フレーゾマンFreezomintとか、ピプルマン・ゲPippermint Getなど、商標名を使う人は少ない。南ヨーロッパで何千と製造されている。その他の特色あるリキュールとなると、話は限りなく錯綜してくる。各メーカーともその酒の総称はなるたけ追い出して、自社の商標名を強調し、その作り方を守ってゆこうとしているからだ。
サンブーカはたくさんあるが、ガリアーノはひとつしかない。パスティスもいくつかあるが、ぺルノーはひとつ。ロック・アンド・ライは誰でも作れるが、フォービドゥン・フルーツは作れない。
by yahooomahalo
| 2005-09-25 20:04
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